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ラブレター
(情书)
脚 本
本日はご多用の中、息子樹三回忌にこのように多数の方々 にご出席いただきまして、まごとにありがとうございます。生前お世話を承りました皆様、親交厚くさせていただきました皆様にお目にかかれ、樹もさぞ喜んでいることと存じます。
【読経】「なんじは時に宝塔の内より」「大音声(だいおんりょう)を出(い)だして、ほめてのたまわく」
藤井の父 あ、あのう、お手隙の方から、これ、どうぞ!
男 おっ、甘酒!気イきくがな、ほんま言うたら、甘うない方がええんやけどな。
藤井の父 安代、お前アレ、菊正かなんかあったろ。
藤井の母 あとで、たっぷり飲むんでしょう。
藤井の父 いいから、供養供養。
同級生 博子さん、「秋葉さんたちがよろしくて、顔出せへんですんません」て。
博子 そうですか。
同級生 先輩たち今日は自宅謹慎ですわ。
博子 自宅謹慎?
同級生 みんな未だに罪の意識なんですよ。
同級生 秋葉さんなんかあれからまだ一度も山登ってへんもん。
同級生 あの人たちにしたら、先輩が死んだこともまだ昨日のことみたいなんやろな。
同級生 みんなちょっと集まって。
同級生 お、名カメラマンの登場やで。
同級生 本間言うとね、秋葉たちが今夜こっそり墓参りに来る計画らしいですわ
藤井の父 博子ちゃん、すまん、今日帰りにこいつ家の前で落っことしてってくれ。
博子 はい
藤井の父 なんか急に頭痛いなんていい出すもんで。
藤井の母 痛い、痛い、突き飛ばさなくたって。
同僚 博子さんでしたっけ?
同僚 治夫さんもう酔っ払ってんの、菊正一人で全部飲んでしまいよりました。
同僚 博子さん。
藤井の父 堪忍やで、博子さん
同僚 博子さん、よく聞けよ。山男や惚れるなよ。
博子 お父さんもたいへんですね
藤井の母 大変な振りしているだけよ。今日だって、これから一晩中どんちゃん騒ぎ。あまり喜んでると、体裁悪いから、忙しぶってるだけ、供養だ供養だなんて言ったって、お酒飲みたいだけなのよ、あの連中は、
博子 お母さん、頭は?
藤井の母 え?ああ、あれね、仮病。何?
博子 みんないろいろ企むもんだなあって。
藤井の母 可愛いもんでしょう、あたしするのは、
博子 秋葉さんたちも何か企んでるみたいですよ。
藤井の母 ぜんぜん遊びに来てくれないんだから、たまには顔見せてよね、
博子 すいません。
藤井の母 途中まではやったのよ、でも今日の準備もあったじゃない。なんだか面倒くさくなっちゃって。
藤井の母 最近、ちょっと開かずの間なの、埃っぽくて、ごめんなさい。博子さん、これ、見てみる。
博子 卒業アルバム!小樽だったんですか?
藤井の母 うん、そう。
博子 どのへんですか?小樽の、
藤井の母 どこだっけ、もうないのよ、国道の下敷きなんかになっちゃって、
博子 あら、残念、
藤井の母 うん、あ、ここ、卒業する前に転校しちゃったから、
博子 でも、面影がありますね、
藤井の母 なんか今見ると、不吉な写真ね、あ、ケーキ食べる?
博子 あ、いえ、
藤井の母 コシムドアのよ
博子 じゃ、藤井……. 樹、あった!
藤井の母 何企んでるの?秋葉さんたち。
博子 あ、今夜夜襲かけるんですって。
藤井の母 夜襲?
博子 夜、こっそりお墓参りするんですって。
藤井の母 じゃ、あの子、今夜眠れないわね。
【郵便配達のウーウーというバイクのモータが止まる】
樹 ゴホッ、ゴホッ、
配達 あれ?樹ちゃん、今日どうしたのよ?休み?
樹 風邪引いたのよ。
配達 そう、今年のはしつこいってよ。
樹 誰かさんみたいね、
配達 ね、あのさ、映画のチケットあんだけどさ、一緒に行かない、土曜とかさ。
樹 行かない、
配達 じゃ、日曜は、
樹 うん、寒い、
配達 樹ちゃんの空いてる日だけど?
樹 ない!
配達 あ、樹ちゃん!樹ちゃんってば……手紙!あらあら、
樹 何よ、
配達 これ、落としましたけど、ラブレター?樹ちゃん、来週は?
樹 渡辺博子?だれだっけな?「拝啓 藤井様、お元気ですか、私は元気です。渡辺博子」なんだ、これ?
【咳き込む】
樹の母 何の手紙?不幸な手紙?
樹 ちょっと違うと思うけど、
樹の母 おじいちゃん、ご飯、
樹 神戸の渡辺さん、ママ覚えない?
樹の母 渡辺さん?
樹 はい。
樹の母 あんたが忘れてるだけじゃないの、
樹 そんなことないって、絶対知らないもん、渡辺博子、変よ、これ、絶対、ね、変よね、おじいちゃん
お爺さん どれ、
樹 神戸に知り合いなんかないじゃん、あたし。
樹の母 知らないわよ、あんた病院行かなかったの?
樹 行くほどのもんじゃないもん、
樹の母 そんなのが引き始めしか効かないわよ、じゃ、明日は仕事行けるのね、
樹 んー、
樹の母 行けないんだったら、病院よ、
お爺さん 樹、それちょっと見せろ……
樹 病院に行くぐらいだったら、苛酷な労働とるわ、あたしは、
樹の母 この間結婚した子は?
樹 うん、
樹の母 結婚して名前変わったでしょう、ほら、そうでしょ。
樹 あれは遠藤さん、ティッシュ、
樹の母 うん、
樹 ティッシュ、
樹 渡辺博子渡辺博子渡辺博子渡辺博子、ああ、もういらつくな!
「拝啓渡辺博子様、私も元気です、でもちょっと風邪気味です。」
「拝啓藤井樹様、風邪の具合はいかがですか?お薬飲んで、早く治してください、渡辺博子。」
【唄: あ〜、私の恋は〜 風に乗って走るわ〜 ―松田聖子―「青い珊瑚礁」〜】
学生 じゃ、先生、お先に。
秋葉 あ、気イつけてな、
学生 博子さん、お先に。
秋葉 そっちはどうやったん?
博子 えっ?
秋葉 法事のほうは?
博子 うん、まあ、いろいろ、
秋葉 いろいろって?
博子 いろいろって、いろいろ、
秋葉 なんかええことでもあったんかいや、なんかそんな顔やで、
博子 そう?何?
秋葉 なんやねん?それこっちが聞きたいわ。
博子 あの人のうちでね、卒業アルバムを見せてもらったの。
秋葉 卒業アルバム?
博子 そう、中学時代の、小樽に住んでたごろ。
秋葉 ふーん、
博子 そのアルバムの最後のところにね、名簿がついてて、その中に、あの人の住所もあった。
秋葉 そりゃあるやろな?
博子 でも、今は国道になっちゃって、もうないだって、お家は、だから、いまはもうない住所なの、そうでしょう?
秋葉 まア、そうやな、
博子 その住所に手紙書いて送ったの、あの人に宛てて。
秋葉 はあ、そんなん、そんなん、書いたって届かへんやろう?
博子 届かないから送ったのよ、だって天国に送ったんだもん。
秋葉 またけったいなこと思いつくやな、君は、
博子 でもね、そうしたらね、返事が来ちゃった。
秋葉 天国から?
博子 そぅ。
秋葉 そんな阿呆な……
「拝啓渡辺博子さま、私も元気です。」
博子 不思議でしょ?
秋葉 「でも、ちょっと風邪気味です。藤井」こんなん誰かの悪戯やろ。
博子 かもしれないけど、でもちょっと嬉しくて。
秋葉 やっぱ、アレかな?やっぱり忘れられへんのかな、樹のこと、そんなけったいな手紙まで書いて、
博子 秋葉さんは?もう忘れちゃったの?
秋葉 そんな、そういうことはないやろ?ほな、俺と君の関係がどう定義するの?な、な、博子ちゃん!な、なって、なって、俺真面目な話しとんのやで、
博子 そんなこというたかて、ようわからへんがな。
秋葉 都合の悪い所だけ関西弁、つかうんやもんな。
秋葉 おお、どないした?
学生 あの、ちょっと忘れ物。
秋葉 なんの?
学生 あ、いいんです。失礼します。
秋葉 見られてしもたな、どないしよ、しゃあないもんな、これで既成事実成立っちゅうことで手工打てへん?
藤井にな、お願いしてきたんや、墓参りん時、君と結婚させてくれや言うて、もういい加減、あいつを自由にしたってってええやろ?なあ、君も自由になれよ。
「拝啓藤井樹さま、今日帰りの坂道で桜の蕾が膨らんでいるのを見つけました。こちらはそろそろ春の気配です。渡辺博子」
同僚 キテるわ。
樹 梶井基次郎(かじいもとじろう)にあるでしょ。
同僚 「桜の木の下に死体が埋まっている」。
樹 あとほら、坂口安吾のさ……
同僚 「桜の森の満開の下」。
樹 そうそう。
同僚 やっぱ冷暗ね。
樹 桜というのはそういうもんよね。
同僚 そういうもんよ。
樹 そのわけの分からない手紙でしょ?風邪薬でしょ?それに桜と春の気配。
同僚 絶対に入院すべきよ、この子。
樹 ねね、‘主’、どうしよう。
同僚 ほっとくと、ずっと送り続けてくるもんね、こういう人って。
樹 ずっとって。
同僚 永遠によ。
樹 うわ〜つ
秋葉 「拝啓、渡辺博子様、あなたはいったい誰ですか、お願いですから、本当のこと教えてください。」何言うんでんよ、こいつ自分で勝手に樹になりすましといて。
博子 でもマジだったらどうしよう?
秋葉 まじって、どういうマジ?
博子 わからないけど。
秋葉 考えてみたら変やな、なんでそいつんとこにちゃんと手紙届くやろ。
博子 へえ?
秋葉 この住所、もう誰も住んでへんというとったよね
博子 国道になっちゃって。
秋葉 でもちゃんと手紙届いてるやん、こいつ国道の上にでも住んどるんかいな、
博子 まさか。
秋葉 どないなってんのやろ?
博子 どないなってんのやろ?
秋葉 でも、そいつが仮に国道の上に住んどるとしてやで……、仮にだから仮によ、仮に中央分離帯の真ん中か何かの掘っ立て小屋にでも住んどったとしようや、だから仮によ、ちょっと聞いて、仮にそういうことがあったとしてやね、郵便屋がその手紙を持ってやってく、郵便屋がそいつに手紙を渡さんやろな、
博子 うん、うん、
秋葉 何で?
博子 国道に勝手に住んじゃいけないから?
秋葉 ちゃうてだから、それは例え話や、ほら、こうしよう、仮に国道はなかったとするわな、そのかわり、樹の家はまだあるんよ、誰か新しい住人が住んどるとしようや、そこに郵便屋がその手紙を持ってやってくる、そしたら、手紙は届くやろか?
博子 それなら届くよね、
秋葉 カーン、届かへんよ!
博子 どうして、
秋葉 届くわけないやん、名前ちゃうもん、郵便屋がその住所に手紙を持ってっても、表札違うとったら、よう入れんやろ。それが国道でも一緒や。
博子 えっ?
秋葉 国道の真ん中に家があってもそれが山田さんちやったら手紙が届かへんのや、つまり、名前が違う限り、こいつに手紙が届くことは永遠にあらへんちゅうわけや、ちゅうことはやで、そや、こいつほんまに藤井ちゅうことかな?
博子 え?
秋葉 しかしやな、せめて樹言う名前やないと、手紙は届かへんいうことやもんな、
博子 ねえ。やっぱり。
秋葉 ちょっと……何かひらめきそうんねん、あーっ、ちゃうか。何?
博子 だから、やっぱり彼は書いてるのよ。あ、それで辻褄(つじつま)が会うじゃない。
秋葉 そういうのは辻褄とは言わんよ、博子ちゃん。
博子 でも夢があるわ。
秋葉 そりゃ夢はあるかもしらんけど。
博子 そうよね、そうしよ?
秋葉 そうしようはないよ。そうしようはないよ。博子ちゃん!ええよ!ええよ!博子ちゃんがそう思うとったらええやん、俺は俺のやり方でことの真相明らかにすることに全力をつくさかい、ちょっと貸して、貴重な証拠物件やから。
樹 もしあなたが本当の藤井樹なら、何か証拠を見せてください。」喧嘩売ってるかしらね、だいたい、最初に手紙を寄越したのは向こうよ。
友達 ね、ちょっと送ってみなよ。
樹 何を!?
友達 証拠よ。
樹 どんな証拠よ?
友達 住民票の写しとか。
樹 なんであたしがそんなもん提出しなきゃなんないの。
友達 じゃ、保険書は?
樹 あたしね、もうこれ以上関わらないことに決めたの。いくら手紙は来ても相手してあげないわ。
友達 樹、偽物よばわりされて黙ってる気?
博子 なんか…..指名手配の写真みたい。
秋葉 これ傑作やな、や、しかし本間に藤井樹ちゅうのがおったんやな、いや、俺の作戦も大成功やね、あ、実はな、俺もこっそりこいつに手紙書いたってよ、お前本間に藤井ちゅうんだったら、証拠見せろ言うてな、しゃげど、こんなのも送ってくるとは、敵も猿もんやで、それでな、博子ちゃん、小樽行ってみへん、俺のツレが小樽でガラスやっとってんやけど、そいつ展覧会んる言うて案内くれたんよ、面倒くさいからことは思ったんやけど、ちょうどええやん、なア、せっかくやから、小樽行って、敵の正体暴いてみへん。
博子 敵じゃないよ。
秋葉 うん?
博子 そうじゃなかったのに、ひどいよ、秋葉さん、でももうこれで最後、みんなおしまい。風邪治ったのかな?あの風邪薬飲んでくれたのかな。
秋葉 博子ちゃん、
博子 あの人の手紙だったの、そう思いたかったの、でも、もういい。
秋葉 こんなん来るからいかんのや、樹なわけないやん!あいつが手紙書けるわけないやろ!つらいで博子ちゃん、いっつもその席に座りよるしな、俺とあいつが最初に君に会うた時、やっぱりそこに座ったもんな、あいつ初対面で君にいきなりつきおらて言うたん、覚える?最初に誘ったんは俺やでそれも女の子なんかとも口もようきかんかったのにやっぱりあん時俺が最初に口説くべきやったな。もし、そうなっとったら、俺たち、どないなっとったんかなあ。小樽行ってみへんか。探してみよ。もう一人の藤井樹。
秋葉 おう、わかったよ、こっちこっち。すぐそこやて。
(すぐ参りますので)
同級生1 よオ、秋葉、久しぶりやな。
秋葉 かわらんな、お前。
同級生2 あー、樹の、そうですか?
博子 ご存知なんですか?
同級生2 そりゃ、まあ、あいつのことは何でも知ってるわ。
秋葉 小さな大学やったからな。
同級生1 でも、あいつが小樽出身土のは初耳で。
秋葉 俺が知らんやったよ。
同級生3 吉やん、その藤井ってさ、ひょっとして、藤井のこと?
同級生2 まあ、知ってんのかいな。
同級生3 やっぱり……いや、そいつ、俺の幼馴染(おさななじみ)っすよ。
同級生1 え?狭い町やな、ここは。
樹の母 またぶり返したのね?
樹 今日休む。
樹の母 だったら、病院行きなさいよ!
樹 カ〜ツ。
(おはようさんです)
樹の母 はい!
樹 阿部粕さん?
樹の母 そう、新しいマンション見つかったんだって。
樹 いいなあ、あたしも行きたい、部屋見るぐらいなら平気よ。
不動屋 あ、少し早すぎましたか。
樹の母 大丈夫。
不動屋 あ、そうだ!
樹の母 樹、すぐ出れる?
樹 アン!
不動屋 おじいちゃん、まだ引っ越し反対なんですか?朝からあんな土いじりして何か種まいてました。やっぱり名残惜しいのかなあ。
樹の母 老人の昔懐かしにつきあえないでしょ、なんと、あと、五、六年で天井が崩れるって言うか。
不動屋 それまちがいありません。今だって、よく住めるなって状態ですよ。
樹の母 そこまで言うの。
不動屋 たとえて言えばっていうかね。
樹 ねえ、ちょっと暑いんですけど。
樹の母 かぶってなさい。
不動屋 樹ちゃん、風邪ばかにできないよ、マリモ電気知ってます。
樹の母 樹ちゃん、風邪ばかにできないよ、マリモ電気知ってます。
不動屋 そう、そう、あそこのご主人、この間でうちの得意さんだけど、風邪こじらせちゃってね、普段、風邪引かない人だけど、引いちゃって、ほら、鬼の撹乱だなんで笑ってたらこじらせてとうとう肺炎、
樹 死んだの?
不動屋 まさか、肺炎ぐらいで死なないけどさ。
樹 うちのパパ、それで死んだじゃん。
不動屋 え?肺炎だっけ?お義兄ちゃん。
樹 風邪こじらせて肺炎、忘れちゃったの?
不動屋 あ、いや、そうだったよね、ウフフフ……いつごろでしたっけ?おにいさん亡くなったの?
樹の母 それも覚えてないの?仮にも女房の兄貴よ、みんな忘れちゃうのね、死んだの事
不動屋 いや、ウフフフ……
樹の母 親を肺炎で亡くしとって、ぜんぜん懲(こ)りない娘もいるしね、
樹 何?ここ、
樹の母 病院よ。
樹 もう!
大友 そっか、しまった、五号線か……。いつだっけな、開通したの、中学は学区が別々 だったから、引越したのも知らなかったすよ。その辺りが玄関かな。
秋葉 ガラガラ、お邪魔します。大友さん、変な話しなんすけど、あいつと同じ名前の人、知りませんかね、藤井と同じ名前の人。
大友 知らんねえ、
秋葉 知りはりません?博子ちゃん、何してんの?
博子 ここに送ったんだね、
秋葉 あ?
博子 最初の手紙…
看護婦 細井さん、細井たきさん、
細井 はい。
秋葉 このへんやな、ちょっとそのへんで聞いてみるわ。
博子 藤井…!
秋葉 へえ、ごめんください。
博子 あ、いいえ。
秋葉 平気やて、旅の恥はかき捨ていうんや、すんません、すいません、こちら藤井さんのお宅ですよね?
お爺さん そうだが、
秋葉 藤井樹さんのお宅ですよね、あれ?
お爺さん 樹は出かけております。
秋葉 そうですか。
お爺さん じきにね、戻ると思います。
秋葉 あ、じゃ、外で待たせてもろてもかまいませんからね。
お爺さん 中入ればいいっしょ。
秋葉 いや、外で待とうと思います。けっこうクレイジーやな、俺たち。
「拝啓藤井樹様、あなたに会うために、小樽に来ました。今この手紙はあなたの家の前で書いています。わたしの知っている藤井樹はあなたではありませんでした。ここに来てようやくすべてがはっきりしました。私の藤井樹は男性です。そして昔、私の恋人だった人です。彼は二年前……」
博子 行こうか。
秋葉 待たへんの?
博子 うん。
博子 「彼は今何処にいるのかわかりません、ただ、時々 思い出すんです。どこかで元気でやっているかなって思うんです。」
秋葉 ああ、あかんわ、まあ、小っちゃい町や、すぐ繁華街出るやろ。
博子 「そんなつもりで書いた手紙でした。だから、何処にも届かなくてよかったんです」。
秋葉 さき、書いとった手紙なんでうそ書いたん?
博子 うそって?
秋葉 あいつが死んだこと書かへんっかったやろ?
博子 どうしてかな、なんとなく、ぶっそうな話でしょう。
秋葉 ぶっそうな話か、そうかもな、あ、これはラッキーやで。
運転手 先そこの上り坂で手上げてたでしょう。今上でお客様下ろして慌ててユーターンしてきたんですよ。
秋葉 それは嬉しいね。
運転手 あれ!なんかお客さん、今先乗っけてた子によく似てるなア。
秋葉 うん、おれ?
運転手 違いますよ、隣のお嬢さん、よく似てるな。
「あなたに大変ご迷惑をおかけしました。本当に済みませんでした。彼と同じ名前のあなたに会ってみたくて、ここまで来たけど、会う勇気が出ませんでした。思えば、手紙だけの間柄でした。手紙だけで失礼させていただきます。」
樹 同じ名前?
「拝啓渡辺博子様 何にも事情知らずにひどい手紙を送ってしまいました。勘弁してください。そのかわりに一つだけ耳寄りな情報を提供します。」
同級生 あ、またいつでも来いや。
秋葉 お前もたまには帰れやことばおかしいよ。
同級生 そうか、それより中村は?
秋葉 中村?連絡ないか?
同級生 全然、電話もかかって来いへん。
秋葉 じゃ、お前んとこ電話せいてな。
同級生 たばこないか。
秋葉 たばこか。
「そのかわり、耳寄りの情報を提供します。実は、実はあたしが中学のごろ、同じクラスに同姓同名の男子がいたんです。ひょっとしたら、あなたの藤井樹っていうのはあいつのことではないでしょうか。」
不動屋 あー、ここだ。ここです。ここの3 階っす。ちょっと見晴らしもいいっすから。
樹 狭いよ。
不動屋 そりゃ、樹ちゃん、あの家に比べたらね、この家が広すぎるのよ。
樹の母 まあ、三部屋も遊ばせちゃってるからね、
不動屋 でしょ。
樹の母 下宿人でも置こうかしら。
不動屋 お、義姉さん、また引越し延びますって。
樹 また土壇場でキャンセルじゃたまんないものね。
不動屋 どうでもいいですけど、結論は早めに、これ、けっこう人気の物件なんで、
樹の母 結論は出てるのよ。あとはお爺ちゃんどう説得するかだけなのよ。
樹の母 この家、あと数年で取り壊さなきゃいけないんだ、わかってるでしょ?お爺ちゃん。決めちゃいますからね。
お爺さん 俺は反対だ。
樹の母 ちょっと座ってください……!座って話し聞いてください。
お爺さん もうわかった。
樹の母 わかってないじゃない。
お爺さん 俺か反対したって、どうにもなんねえべえや、
樹の母 そうよ。
お爺さん じゃあ、引っ越すしかしょうがないべ。
樹の母 もうろくじじい!あれ?今お爺ちゃん引っ越すって言った?
藤井の母 何か調べてるの?こんな真剣な顔して。
博子 ええ、ちょっと、彼の同級生に同じ名前の人がいたんですか?
藤井の母 えん、そう、いたかな?
博子 この子、
藤井の母 どれ?えん、覚えてない。
博子 似てますか?この写真、私に似てますか?
藤井の母 博子さんに?似てるかな?似てるとどうなるの?似てると何かあるの?
博子 いいえ、別に。
藤井の母 嘘。
博子 本当です。
藤井の母 博子さん、顔に嘘ってかいてある。似てるとどうなるの?
博子 似てたら、許せないんです。それが私を選んだ理由だとしたら、お母さん私どうしましょう?あの人、私どうしましょう?あの人私にひと目惚れだって言ったんです。私もそれを信じてました。でも、ひと目惚れにはひと目惚れのわけがあるんですね。騙されました。私……
藤井の母 博子さん、中学生の子に焼餅焼くの?
博子 そうですよ、変ですか?
藤井の母 変よ、
博子 変ですよね。
藤井の母 あの子幸せね、あなたにそんなに焼餅焼かれるなんで、博子さんもまだ、あの子のこと好きなのね。
博子 そんなこと言ったら、また泣いちゃいますよ。
「お元気ですか?あなたの言う藤井樹と私の藤井樹はやっぱり同一人物のようです。実はこの手紙の住所は彼の卒業アルバムの中から見つけたんです。すべては私のそそっかしい勘違いでした。本当にごめんなさい。ところで、こんなに迷惑をかけておいてお願いするのがずうずうしいことなんですが、もし彼について何か覚えていることがあれば、教えていただけないでしょうか?」
「拝啓渡辺博子様 確かにあいつのことはよく覚えています。でも、彼との思い出はそのほとんどが名前にまつわるものばかりで、といえば、大体想像がつくと思うけど、それは多分あんまりいい思い出とは言えないものばかりなんです。入学式の日からしてすでにそうでした。」
先生 庄司勝利、
生徒 はい。
先生 田中恭介、
生徒 はい。
先生 服部友和
生徒 はい。
先生 藤井、
二人 はい。
先生 同姓同名か?
生徒 初めて見たよ。
「この調子の狂ったスタートきてしまった私の中学生活を以後も、あいつのせいでふどうな差別に満ち溢れた暗い三年間になってしまったのです。たとえば、日直のときなんか……」
藤井女 藤井樹君、明日の日直だれだっけ?
藤井男 岡村と船橋、今日の数学って、なんだっけ?
藤井女 方程式。
藤井男 何方程式?
隣の生徒 藤井、あついね、あついね!失礼しやした。あついね、たまんないよ。
藤井女 連立方程式。
藤井男 サンキュー。
「こんな日々 も一年の辛抱かと思ったら、私たち何と三年間ずっと同じクラスになってしまったのでした。はたで聞いているぶんには面白いでしょう?でも、当人には結構辛い日々 でした。お互いなんとなく避けあって、あんまり話しをした覚えもありません。」
同僚 あれからどうした?
樹 え?
同僚 手紙。
樹 あ、ぽちぽち、
同僚 ぽちぽちって?
「拝啓藤井樹様 彼はどうだったのでしょう?同じ名前の女の子にどこか運命的なものを感じていたのではありませんか?それはありえないわ。あなたはなにかのロマンチックな空想にしたってるようだけど、現実というものをもっと殺伐としたものよ。私たちの関係は例えれば、アウシュビッツの中のアダムとイブってとこかね繰り返される冷やかしのこうもんに生きた心地もなかったわ。クラス委員選挙の時のあの事件のことなんか、思い出すだけでも忌(い)まわしいんだ。投票用紙の中にこんなふざけたのが一枚だけ混じっていたんです。それを開票係りの稲葉がわざわざこう読み上げたの:藤井樹ハード藤井樹。生徒たち:おめでとう。おめでとう! ところで、それだけじゃ終わらなかったわ。クラス委員選挙の後は各種専門委員ってやつ、放送委員とか、その最初が図書委員選挙でした。なんかいやな予感がしたのよ。」
開票係り えー、図書委員は藤井樹コンビに決定しました。
生徒たち あ、こいつ泣いちゃってるぜ。マジかよ。なんだこいつ、愛の勝利でした。パチパチパチパチ……!あ、聞こえちゃった。メンゴ、メンゴ、冗談冗談、何何何……ドゥドゥドゥ、ハイハイハイ、やめろっ!てめえ!やめなよ!はなしなよ!はなせ!
女子生徒 やめなよ、みんなとめてよ!
「彼の暴動も空(むな)しく、結局、私たちは図書室送りにされました。でもあいつは仕事をサボったばかりで、ほとんど働いてくれませんでした。」
藤井女 藤井樹君、ちょっとこっちやって下さい。
「あいつとにかくたくさんの本を借りてくの。それも《青木昆陽の伝記》とか、《マラルメの詩集》とかいう類(たぐい)の本、要するに、誰も借りないような本ばかりだったの。」
藤井女 こんなのを読むの?
藤井男 読むわけないじゃん。
藤井女 藤井樹、ストレートフラッシュ!
「要するに、あいつは誰も借りてない白紙のカードに自分の名前を書くのを楽しんでただけなの。あきれた私は彼にこう言いました:馬鹿じゃない?でも、彼にはこの悪戯がよっぽど気に召したみたいで、あきもせずに、しょっちゅうやってました。とにかく変なやつでした……」
「拝啓藤井樹様 お手紙深く感謝しています。あなたの思い出の中に住んでいる彼はもちろん私の知らない彼です。でも、やっぱり彼なんです。きっとそんな彼がいた場所や時間はもっとたくさんあって、私が知ってる分はほんのわずかなんですね。あなたの手紙を読んで、そんなことを感じました。どうかもう少しお話を聞かせてください。あなたの思い出を分けてください。」
樹 なんだか、私の、脳味噌を小包にして送って挙げるのが一番早そうね。
「それは確かに二年の期末テストの時、答案を手にした後の私は、立ち直らないぐらいにショックを受けました。27 点!その 27 って数字は未だに忘れられないわ。ところがみると、これは私の答案じゃなかった。ということは、あいつが裏にごりごり落書きなんか書いている奴が私の答案のはずです。それが長い一日の始まりでした。あたしの答案返しよ、その一言がどうしても言えないばかりに、勝負は放課後へ持ち越されたのでした。」
女子生徒1 前田先輩、あの……和美が前田先輩とつきあいたいって言ってるんですけど、あの……友達としてでいいんです。
女子生徒2 なんだア!おらア!前田ア、あんなやつやめちゃいな。
樹 「あのころ、放課後の自転車置き場といえば、恋人たちのメッカでした。」
あれ、樹じゃん、意外だなア、やるじゃん。
「それは隣のクラスの及川早苗(おいかわさなえ)でした。」
及川 あなたも誰か持ってる?お互いつらいわね、男って勝手よね、そう思わない?(急に泣き出す)
樹 あの、どうぞ。
及川 ありがと、でも、でも、女のほうがもっとズルイもんね、がんばってね、お先に。
樹 「つかの間の相棒を失ったあたしは、また、一人であいつが来るのを待ち続けたのでした。」
藤井女 ねえ、ちょっと、今日の英語の答案、間違ってなかった?
藤井男 ええ?
藤井女 これ、藤井樹君のじゃない?
藤井男 暗くてよく見えねえよ。
藤井女 早くしてよ、手が疲れてきた。
藤井男 そうか、BREAK の過去形って BROKEN か…
藤井女 ちょっとオ、こんなところで答え直しなんかしないでよ。
藤井男 おい、見えねえよ。
樹 あった、なんだこれ、最低!「その曰(いわ)くつきの答案を見つけたので送ります。裏側の落書きはあいつの直筆(じきひつ)です。」
「拝啓藤井樹様 直筆入りの答案用紙ありがとうございます。大切にします。ところで、彼はどんな女の子が好きだったんでしょう?例えば、初恋の相手なんかに心当たりはありませんか。」
「拝啓渡辺博子様 そこまでに彼のプライベートに関わるデータは私にはありません、でも、あれで結構、あいつモテたからなア。覚えてますか?及川早苗、あの子が絡(から)んでおきたひと悶着(もんちゃく)がありました。」
及川 樹、藤井君ってさ、誰か付き合ってる人いるの?
樹 知らないわよ。そんなの!
及川 そう?
樹 何よ。
及川 だって、あなたたち仲よさそうだから。
樹 冗談言わないでよ。なんでそうなるのよ。
及川 愛を感じないの?彼に、なんだったらあたしが愛のキューピットになってあげてもいいのよ。
樹 お断りします。
先生 各自ペアになって!背中合わせで柔軟体操はじめ……!
及川 ホントにつきあってなかったのね、あなたたち、
樹 だから、そう言ったじゃない。
及川 彼に直接聞いちゃった?
樹 え?
及川 せっかくあなたのために、愛のキューピットになってあげようと思ったのに、すっごい残念。だから今度はあなたがあたしのキューピットになる番じゃない?
樹 なに、それ?
及川 あたしと藤井君との仲、取り持ってほしいの。
樹 何言ってんのよ。
及川 あたしってさ、何するかわかんない女でしょ?
藤井女 なに、それ?
藤井男 あたしと藤井君との仲、取り持ってほしいの。
藤井女 何言ってんのよ。
藤井男 あたしってさ、何するかわかんない女でしょ?
藤井女 及川早苗がね、あんたと友達になりたいみたいよ。
藤井男 そう、
藤井女 どう?
藤井男 別に、
藤井女 別にって、どっちよ、
及川 どっちって……な、いやなの、誰か他に好きな女でもいるの?いるの?
藤井男 いねえよ。
藤井女 じゃあ、いいんじゃん。
及川 ちょっと待ってよ、心の準備ができてないから……ちょっと待って、ちょっと、あなたはここで結構よ、男と女はこれの繰り返しよね。
「というわけで、及川早苗が恋人じゃなかったことだけは確かです。いずれにせよ、あんな無愛想な男に、まともな恋人なんかできるはずないじゃない。いえ、これはあくまで中学時代の彼についてです。」
樹 キャーッ!
「渡辺博子さん、一つだけ質問、あなたはあいつのどこがよかったの?」
学生 お待たせして、どうもすみません。先生じきいらっしゃいます。博子さん、あたし、秋葉先生のこと好きだったんです。博子さんや思ったからあきらめたんですよ。あたし、博子さんのことも好きやし、どうか、先生のこと幸せにしてあげてください。先生が博子さんのことを幸せにしてあげなきゃいけ
秋葉 (唄 あ〜、青い風、きって走れ〜、あの島へ〜)なあ、一度あのお山言ってみいへんか?あいつに挨拶してこようや、なあ。
博子 うん。
同僚 ちょっと、こっちやってよ。
樹 今日具合悪い、まかせな。
同僚 いつまで風引いてる気よ?
「思い出すと、結構でてくるもんですよ、こんなこともありました。あいつ、通学中にトラックに接触して、救急車で運ばれたの。あの日はなかなか傑作だったわ。」
先生 えー、今朝このクラスの藤井樹が事故にあった、まだ子細(しさい)がわからないが、浜口先生も病院に行かれたので、今日のホームルームは私が……藤井……?お前何でここにいるんだ?自習!
生徒たち 何なんだ、あれ。
「あいつは左足を複雑骨折しかもそれが陸上競技大会の一ヶ月前、彼は100メートルの選手だったんです……」
女子生徒 そのカメラよく見えるの?見せてよ。
男子生徒 返せよオ、
女子生徒 いいじゃない!ねえ、このカメラ見て。
樹 見えるの?
(位置について!用意!ドン!)
先生 君、だめだよ、何処の学校だ?何処の中学だ。
男子生徒 何なんだよ、あいつ、もう一回やってよ。(競技が台なしだよ)
女子生徒 何やっとんだ?あいつ。
樹 ピントの合わせ方は?
女子生徒 あなた見てなかったの?
樹 何が?
「それがあいつの中学最後のスプリントになったのです」
配達 あれ?今日、休み?
樹 ちょっと、勝手に入ってこないでよ。
配達 いや、今日は例外、
樹 例外なんて許さないから。
配達 いたい?これ、ハンコください、
「拝啓藤井樹様 彼の走ったグランドの写真を撮ってください……」
浜口 どちら様ですか?部外者の方?
樹 浜口先生、もと 3 年 2 組の。
浜口 藤井さん?
樹 そうです。覚えてますか?
浜口 3 年 2 組、藤井は、出席番号が……24 番。
樹 すごい、どうして、
浜口 そう、市立図書館で働いているの?
樹 何の因果かこそうなっちゃって。
浜口 ここの仕事も無駄じゃなかったわね。
樹 え、好きでしたから、図書委員。
浜口 今日はね、書棚整理なの。
樹 懐かしい!
先生 みな集まって、あなた方の先輩の藤井さん。
生徒1 こんにちは!
生徒2 藤井樹さん!
先生 何で知ってるの?
生徒 うそォ!
女子生徒1 あたしたちの間で、藤井樹探しゲームっての、はやってて、ね
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